学習塾ブログ / 漱石俳句集

2017年05月24日

漱石俳句集

岩波文庫から『漱石俳句集』というのが出ている。1990年が初版で24刷しているから世の中には随分出回っているのでしょう。漱石全集には作成した俳句が全部載っているからそちらを読んでいる人も多いと思う。

これが思ったよりも面白い。面白い理由は必ずしも「うまい」からではない。むしろ友人の子規と違い漱石は俳句は好きだったかも知れないが、言ってみれば素人だ。

まあ、漱石ほどの大文学者をつかまえて素人とは失礼だが、子規と比較すれば断然素人だろう。この俳句はいかがなものかというのも入っている。そこが楽しい。

吹井戸やぼこりぼこりと真桑瓜

 

真桑瓜は、今でいえば西瓜かメロンかな。テレビのコマーシャルでも谷川の水で西瓜を冷やす、井戸水で夏野菜を冷やす場面は定番だ。しかし、漱石の時代には必ずしも定番だったわけではないかもしれない。情景が鮮やかに浮かぶ写生の名句かと思うが、平板と感じる人もいるだろう。

 

菜の花の中に小川のうねりかな唐黍を干すや谷間の一軒屋

 

この句なども情景は大変よく分かる。絵を画けと言われれば、多くの人がそれらしい絵を画くだろう。特に後者は、漱石先生、もう少し工夫が出来ないものかな・・・

白菊にしばしためらふ鋏かなつくばいに散る山茶花の氷けり

その心理はよく分かりますが、前者は俳句としては何か説明調かなと感じる。子規なら、剪定を逡巡せざるをえない白菊の美しさをどう詠むのか、この句にどう手を入れるにかなと思ってしまうのです。後の句は茶会の路地だろうか、確かに写生だし、情景は確かにそうなんだろうし、これも絵はよく分かるが物足りない。

 

いかめしき門を入れば蕎麦の花誰が家ぞ白菊ばかりみだるるは

 

これらの句は少し似ています。工夫がないと言えばないけれど素直で好きな句です。とくに前者は、何の用事で訪問したのか不明ですが、「いかめしき」の中に軽い緊張感を感じますが、蕎麦の白い花がそれを和ませている様子がよく伝わってきます。

瑠璃色の空を控えて岡の梅                               

この句も、岡の梅に焦点をもっとあてて

 

丘の梅瑠璃色の空を控えおり

とした方がパンチが利くかなとも思う。
漱石は文学の名作でもつまらないと感じたらそれはしかたがないという旨の事をどこかで発言してらしい。私も俳句はド素人だけど勝手な評論をさせていただいた。的外れが多いと思うが、的外れに楽しむのも、また良しです。おそらくこの俳句集の中には素晴らしい原石があるに違いない。また、いつか読み直すと再発見が相次ぐのだろう。

塾長コラムより