学習塾ブログ / したたかな寄生

2017年11月22日

したたかな寄生

「したたかな寄生」(成田聡子)という本を読んだ。改めて他の生物に上手に寄生する生物のしたたかさに舌を巻くとともに、特に昆虫のそのおぞましい寄生の実態に言葉を失います。

エメラルドゴキブリバチというゴキブリ(主として体の大きいワモンゴキブリ)を奴隷化する昆虫がいるらしい。このハチがどのようにゴキブリを奴隷化するかというと。

①逃げまどうゴキブリに覆い被さり、あごで噛みつきゴキブリの神経に毒を注入し前肢を麻痺させる。

②脳を毒で汚染されたゴキブリは、元気に生きてはいるが、この後はハチに自由に操作されるようになる。結局、地中のハチの巣穴に誘導されて、腹部にエメラルドゴキブリバチの卵を産み付けられる。

③母親のハチは巣穴を砂で塞ぎ、幼虫のエサとなるゴキブリが食われてしまわないようにする。そしてそこを立ち去る。

④ハチの卵が孵るまでの3日間、ゴキブリは逃亡することもなくボンヤリと過ごす。

⑤卵から孵った幼虫たちは腹部を食い破りゴキブリの体内に侵入する。

⑥幼虫たちは、生きたゴキブリの内臓を食べ続ける。8日間ほどで幼虫は体内でサナギになる。しかも、その時ゴキブリは生きています。サナギになった後、被害にあったゴキブリはひっそりと息を引き取る。

⑦エメラルドゴキブリバチのサナギはそれから4週間後、エサとなったゴキブリの身体を突き破り、美しいエメラルド色の成虫として飛び出す。

すごいですね。あの生物としては人間よりも大先輩である、したたかな生命力を持つゴキブリがいとも簡単にねじ伏せられちゃってる。驚くべきはエメラルドゴキブリバチはゴキブリの存在が発生と世代交代の前提になっているということです。いわば一蓮托生ですが、ゴキブリは3億年間の歴史を持つ、「生きた化石」ともいわれる生物種としては安定していて、適応能力抜群の無敵生物ですから、こいつに寄生するってのはすごく安心、安全な将来があるともいえますね。

みなさん、このパターンって、ハリウッド映画の「エイリアン」そっくりでないですか。というより「エイリアン」がこうした昆虫の生態を下敷きにしている訳だけど。エメラルドゴキブリバチは南アジア、アフリカ、南太平洋地域に分布しており、日本にはいませんが、同じようにゴキブリを奴隷化するセナガアナバチ属2種が生息しているらしい。愛知県以南から西表島あたりまで分布。

昆虫には、このように他の昆虫に卵を産み付けて育てる種が多数います。とくにハチに多い。コマユバチ属の5000の種はすべて他の昆虫に寄生するらしい。ある種のコマユバチはイモムシに数十個の卵を産み付けます。子供たちがイモムシの内蔵を喰い成長するのは他の寄生バチと同じですが、イモムシは身体を食い破って出てきた幼虫がサナギになっても、(その時点でイモムシは生きている)、瀕死のイモムシはハチのサナギを守るために必死の力を振り絞って、無力なサナギを狙う他の昆虫を追い払おうとするらしい。凄い、これは凄すぎる。

ベストの広場12月号
代表エッセイより